坂井輪診療所

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60年の歴史 ベンゾジアゼピン系睡眠薬をどうつかっていくか?

2020/1/26
[ 内科の病気 ]

昨年12月13日「自然な眠りを忘れた現代人~疲れたから寝る、時間だから寝る~」を健康雑記帳に書きました。 http://www.niigata-min-sakaiwa.com/zakki/487  しかし現実は……

睡眠導入剤を欲しがる患者さんたち

今日の外来でもこんな患者さんが来られました。70代女性「孫の食事をつくらないといけないから、毎朝6時に電車に乗って娘の家へ、家事を済ませて自宅にもどると11時、疲れすぎれて眠れない。もっと強い睡眠薬が欲しい」 80代男性の妻より「夜中にトイレへ起きたらわけのわからないことを言って、朝になったら覚えていない。最近よく転倒するし、先日は大けがをした」男性へ「睡眠薬の副作用です、なんとかやめませんか?ベルソムラだけでがんばりませんか?」男性より「睡眠薬がないと全然眠気が来ないんです」 60代女性「睡眠薬だけなくなったから欲しい」「ハルシオンまだあるでしょう?何錠飲んでるの?」「2錠だと眠れないから、もう2錠追加することがある」実際は4錠ずつ服用していました(1日8錠)他にも数名の患者さんと同様のやり取りがありました。

ベンゾ系睡眠導入剤の登場と医師による安易な処方

これらの患者さんは、若いころから、数十年にわたってベンゾを常用しています。日本では1961年に「コントール」「バランス」が登場して以来、多くの患者さんに処方されてきました。1983年には「ハルシオン」2000年には「マイスリー」その前後にもたくさんのベンゾが登場しました。しかし今ほどベンゾ依存症に対する警鐘が鳴らされることはなく、医師も患者さんの求めるまま処方を続けてきたのです。その結果が前述の患者さんたちを生み出しました。常用量で効かなくなる薬剤耐性が生まれ、前向性健忘や転倒による骨折が多発しました。それでも患者さんはベンゾの処方を希望し、医師は自分の処方した薬のために悩む、自己矛盾に陥りました。

なぜこんなにもベンゾがつかわれたのか?最大の理由はその安全性にあります。ベンゾが登場する前は「バルビツール酸系」が唯一の睡眠導入剤でした。 耐性の形成が早く依存しやすく、安全域がより狭いため、患者は眠れても過剰投与で死亡してしまう、決して少なくはなかったようです。36歳で死亡したマリリンモンローの死亡診断書には「 過剰摂取による、急性のバルビツール酸中毒 」と書かれていたそうです。抑制性神経伝達物質であるGABA(ギャバ)はαとβの間に、ベンゾはαとγの間に結合し、ベンゾ受容体を活性化することでClチャネルを開きます。ところがバルビツール酸は直接Clチャネルに結合するため、用量依存的にいつまでもClイオンを流し続け、やがて死に至るのです。

出典:GABAA受容体の構造と、ベンゾジアゼピン受容体、バルビツール酸受容体との関係性
https://yakuzaishiharowa.com/medical_pharmacy/bz-recepter.html

より副作用の少ない睡眠導入剤の登場

2010年「ロゼレム」2012年「ルネスタ」2014年「ベルソムラ」が登場しました。またその頃、ベンゾ受容体の構造が詳細にわかるようになりました。マイスリーは「ω1受容体」に選択性が高いことにより転倒が少ないと言われていましたが、ω1受容体の本態が「GABAα1」であることが明らかになりました。そしてα受容体には1~6があり、ベンゾはα1α2α3α5に作用するのです。古典的なベンゾは、α受容体に非選択性に結合しますが、近年のベンゾでは、α1受容体の選択性の高い方から「マイスリー」「アモバン」「ルネスタ」の順となります。

非ベンゾ系(Zドラッグ)もベンゾ系と変わらない

α1は鎮静作用が強く意識を低下させることで睡眠を増強します。と同時に、前向性健忘、依存があることが判明しました。であればルネスタは安全かということになりますが、常用量依存は少ない可能性がありますが、個人差もあるでしょうし長期投与の場合は依存が避けられない可能性があります。またマイスリーは筋弛緩作用が少ないため転倒が少ないと言われていましたが全くないわけではなく、またルネスタの投与量は少ないため筋弛緩作用は強くないようです。しかし個人差はあるでしょう。

出典: ルネスタ(=エスゾピクロン)とマイスリー(=ゾルピデム)の効き目の違い
http://asanagi987.blog27.fc2.com/blog-entry-7354.html?sp

まずは睡眠衛生指導、ベンゾ依存症をつくらない努力を

結局のところ、選択性が高まってもベンゾはベンゾであり、依存、耐性、鎮静による認知機能低下、筋弛緩による転倒などのリスクを考えれば、高齢者には避けたい薬です。新規の患者さんがこられた場合、もちろん睡眠環境の改善、ストレスなどへの対応を相談した上で、若い患者さんであってもベンゾは屯用でしか処方しません。背景に精神疾患が疑われる場合は専門医を紹介します。高齢者の場合は、可能限りロゼレムやベルソムラをすすめています。しかしすでにベンゾ依存症となった患者さんへの対応は簡単ではありません。根気よく説明し、ベンゾの減量を勧めています。だれでも認知機能の低下は怖いですから。しかし転倒の話をすると「わたしは転ばないから大丈夫です」言われる方が多いのです。みなさん、どう考えますか?

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