「痛風発作」尿酸値が高くなくても起こる?
高尿酸血症の治療薬を処方している患者さんを調べてみました。レセコンから直近3か月間に「フェブリク」を処方されている患者さんを抽出しましたら51名(うち女性は3名)でした。処方量別にみると、10㎎ 投与36名、20㎎ 投与14名、30㎎ 投与1名でした。ひとりひとりのカルテはチェックしていませんが、男性のほとんどは「痛風発作」を経験していると思われ、2度とあの痛みを繰り返したくないと、しっかりお薬を飲んでおられます。その中からお二人の患者さんを紹介したいと思います。
60代男性。ふだんの酒量はビール350mlと焼酎水割り2杯、あるとき足の親指の関節を中心に激痛、まっ赤に腫れあがり、どう見ても痛風発作です。しかし血中尿酸値は4.6㎎(正常値は4.5~7.0)と正常でした。禁酒を指示し鎮痛消炎剤を処方、2週間ほどでようやく痛みがとれ、血液検査を再検したら6.8㎎に上昇していました。もちろん痛みが怖くてしっかり禁酒していました。再発予防のためフェブリク開始。
ところが1年後の夏、痛風発作再発。尿酸値は6.9㎎と正常、しっかり薬は飲んでいたのに、事情を聴くと炎天下の中、仕事でずいぶん歩き回ったということでした。また水分のとり方も不足だったようです。その後再発もなくなり通院中断。2年ほどして初夏に痛風発作再発。薬は飲んでいなかったのに尿酸値は6.8㎎ 実はこの数値は高いのです。
実は、半数ほどの人では、痛風発作時の尿酸値は低下します。サイトカイン(炎症性物質)の影響で腎臓からの尿酸排泄が亢進するのです。この患者さんは発作時に尿酸値が低下するタイプだったのです。 http://www.higasiguti.jp/page/pdf/usohonto.pdf
その後は現在に至るまでしっかりと服薬を続けており再発はありません。水分もしっかりとり、親指に負担のかからない歩き方を指示してます。変わらずお酒も飲んでおられます。
もうひとり60代男性。40代から尿酸値が高く7~8㎎で推移、あるとき足の親指から甲にかけてまっ赤に腫れあがり、激痛のため歩くことができません。尿酸値は8.7㎎に上昇していました。禁酒を指示し鎮痛消炎剤処方。ところがなかなか腫れがひきません。鎮痛消炎剤と冷湿布で1か月かかりました。そこでフェブリク開始したのですが、1か月後に再発、実はもとどおり飲酒されていたようです、自己申告で日本酒3合。その後禁酒を指示し痛風発作がおさまり、尿酸値は6.7㎎まで低下したところで通院中断。
半年後に痛風発作再発。孫の相手でずいぶんはりきって歩いたり走ったりされたようです。尿酸値は8.1㎎に上昇し、禁酒と鎮痛消炎剤処方。その後はフェブリクの投与量を増やしながら尿酸値が7以下になるようにコントロールしました。患者さんはときどき検査する尿酸値をにらみながら酒量を調節されているようです。
痛風発作のきっかけは
さて、まずどうして痛風発作が起こるのか? 尿酸値が高いまま放置すると、体内で尿酸が溶けた状態でいることができなくなり「結晶化」します。ですので尿酸値7㎎以上の方は、体内のどこかに結晶ができていると考えた方がよいのです。でもだれもが痛風発作を起こすわけではない、きっかけがあります。大量のお酒を飲んだ翌日、また足の親指に負担のかかる激しい運動をしたあと。尿酸の結晶が剥がれ落ち、それを異物と判断した白血球が尿酸を排除しようと反応を起こします、それが痛風発作なのです。初めに登場したお二人に共通した原因がわかりましたでしょうか?
痛風発作の予防のためには、尿酸値6㎎
さて、尿酸値はどこまで下げればよいのでしょう?関節にたまってしまった尿酸結晶の溶解度は、37℃の環境で6.8㎎です。ということは、一旦できてしまった尿酸結晶を溶かしてしまうためには6.0㎎まで下げたいものです。なぜなら室温20℃では、足の体温は28℃しかないのです。その目標値からみると、わたしの薬処方量は少なめなのだと思います。できればもう少し節酒していただければ、食事療法をしていただけるとよいかなと思っています。
本当に怖いのは「痛風腎」による末期腎不全
今回は「痛風発作」痛い話だけしました。実は痛くない話の方が怖いのです。血中を循環する尿酸は腎臓に沈着し結晶化します。 間質尿細管性腎炎をきたした腎臓の機能は低下し「CKD(慢性腎臓病)」の一因となります。心筋梗塞や脳梗塞の原因となり、また末期腎不全に至り人工透析導入患者さんの1%を占めているのです。