坂井輪診療所

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コロナの時代~高齢者が安心して暮らせるためには、「専門職による日頃の見守り」と「いざというときのすみやかな救急搬送」が必要

2020/12/20
[ 地域医療を考える ]

コロナが怖い

当院のある新潟市西区寺尾東3丁目の高齢化率は35%(女性に限れば40%)と高く、外来通院患者さんの45%が75歳以上です。新潟市でも2月29日に第一例目が報告され、次には自分が感染するのではないかと怯えた高齢者は、ほとんど家にこもるようになりました。診療所にいくと感染するのではないかと、薬がなくなってもとりにいけない、春の健康診断も予約が入りませんでした。4月には外来患者さんが例年の半分くらいまで減る日もあり、熱があっても自宅で我慢していたようでした。当院の「かぜ外来」には高熱の高齢者が続きました。風邪ではありません、すでに肺炎を起こしていたり、黄疸、胆管炎を起こしていたり、尿路感染から敗血症、腹痛をがまんして虫垂炎から腹膜炎にと、例年にない異常事態でした。

コロナを正しく知って、正しく恐れる!

症状があったらがまんしてはいけない!慢性疾患のある人は治療を中断してはいけない!と一方的に話しても伝わりません。当然です、怖いんです、得体のしれないものへの恐怖です。そこでまず、職員がしっかり勉強する、新しい病原体でわからないことだらけですが、最新の情報をみんなで共有し、感染予防対策をしっかりやる。その上で、患者さんにできるだけ正しい情報を伝えようと、新入社員の女性に素晴らしいちらしをつくってもらいました。さかいわ健康友の会のニュースといっしょに配布し、あちらこちらにポスターを貼りだしました。その効果が現れたのか、マスコミ情報の変化によるものか、6月にはかつてない患者さんが受診されました。「かぜ外来」はむしろ軽い風邪の患者さんばかりになりました。

当時は気管支喘息でACE2受容体が減少することはわかりませんでした。

コロナの時代だからこそ、ICTによる情報共有を

新潟県内の「救急業務の現況」(令和元年度版)によると、救急要請後の現場到着平均所要時間は9.1分(全国平均8.7分)、収容平均所要時間は44.6分(同39.5分)と全国平均を超えており、2年前の新潟市医師会報に掲載していただいた学術論文のデータより延長しています。いつまでたっても受け入れ先の病院が決まらず、救急車の中で苦しみ続ける患者さん、焦燥感にあふれた救急隊員の表情が目に浮かぶようです。どうして?根底には絶対的な医師不足があります。医師偏在指標では全国最下位、人口当たりの医師数は全国平均の8割、東京や京都の6割と少ないのです。病院勤務医は過労死寸前の過重労働に追われ、開業医も多数の患者さんの外来診療のため、在宅医療に割く時間がとれません。

そこで新潟市旧市内で最も医療過疎な西区赤塚・坂井輪包括地域に、在宅医療ネットワーク「にしく赤・坂ネット」を立ち上げました。さらに両地域の境界にある信楽園病院にお願いし「在宅医療バックアップシステム」を構築し、開業医が安心して在宅医療に参加できるようにしました。しかし高齢化はとどまることなく進み、当院がある寺尾東3丁目の高齢化率は35%(女性だけでは40%)に、当院外来通院患者さんの45%が75歳以上、独居、高齢者世帯が急増し、介護なしに生活が困難な世帯が増えました。電子カルテをたたいてみたら、介護認定を受けている患者さんは、なんと260人、これが当院の現状です。

SWAN(  S 住みなれた、 W 我が家で、 A 安心して暮らせるまち、 N 新潟)ネットのとりくみ

新潟市もおなじ問題意識をもっており、平成28年 地域包括ケアに対応したヘルスケアSNS 「SWANネット」を立ち上げ、医療者・介護現場の情報共有が始まりました。今毎日の仕事は、電子カルテと同時にSWANネットを起動することから始まります。救急の場合は電話で対応していますが、その他の情報はSWANネットで共有しています。訪問看護や訪問薬局、リハビリ、ケアマネ、介護事業所などからたくさんの情報が入ります。まず必要な対応をしてから、午前の仕事が始まります。

当院でSWANネットを利用している患者さんは160人になりました。 また75歳以上の患者さんを診療するときには、家族構成や生活状況をを聞き取ります。同時にSWANネットを利用している患者さんの情報を書き込みます。次の診察は1か月後ですから、その間の居宅での生活をささえているのは家族と多職種です。次回診察までの間に、実にいろいろなことが起きますから、そのつどSWANネットを通じて情報共有し、すみやかに対応します。このシステムのおかげで安心して外来診療ができるのです。

「高齢者医療」と「救急医療」がつながる時代に

12月から「救急隊」「搬送先医療機関」にSWANネット閲覧権限が拡大されました。長年待ち望んだ「在宅医療と救急医療の連携」が「介護保険認定者と救急医療の連携」に広がることになりました。当院の定期訪問診療は現在24人です。外来通院できる患者さんは在宅医療に含まれませんが、実は通院患者さんの中に要介護、在宅予備軍の患者さんがたくさんおられるのです。今回の新潟市医師会のとりくみは、救急弱者である高齢者に対象をひろげた大変すばらしい仕事です。高齢者が、長年住み慣れた街で安心して暮らせるように、医療と介護と福祉が連携し、いざというときにすみやかにかかりつけの病院で治療を受け、また自分の家に帰ってくる。あたりまえのことが、医師不足新潟県で実現しそうです。

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